第十二章 家庭問題


家に向かう足元がおぼつかなくなるほど、不安に胸がざわつく。

アンドレとケイティは夜8時に帰ってきた。私はケイティを寝かしつけながら、アンドレにフィッシャー夫人宅での事、そこで聞いた話をどう切り出そうか考えていた。昼間の事もあり、どう話せばいいのか難しいが、しかしそうもいってもいられないとても大事な事だ。

「アンドレ」

意を決して切り出した。

「遂にわかった」

彼女は返事をしなかった。黙って新聞を見つめている。

「アンドレ、私の発見を君に話してもいいかな?」

冷たい目で彼女は私を見た。

「ねぇ、ジョン。私があなたの話にはもうまっぴらだって事は解っているでしょう。けどまた聞く事になるんだろうと思ってたわ。続けなさい」

彼女は疲れきっていて、また不安そうだった。

フィッシャー夫人が私に話してくれた事を彼女に話した。彼女は、私のゆっくりとした話を黙って聞いていてくれた。私が話し終えたとき

「で?」

「解らないか?彼だ。去年と今年、1月18日にジョージー通りで見た男がその人なんだ」

「誰?」

「勿論、ジャノス サボゥ」

「ジョン...どうしたらとうの昔の死人を見れるっていうの?あなた、間違いなく病気だわ!」

「何を言うんだ!」

「多分、仕事とケイティの世話で疲れているんだわ、医者に診てもらう必要があるわね」

「君は...1月18日に私と一緒に見たじゃないか!」

「ジョン、覚えておいて。私が見た全ては、あなたが床に倒れて、叫んだ。ただそれだけよ」

言葉が無かった。彼女は私を信じてくれていない。あろうことか私を病気だという。私の話したことは事実であり、ジャノスが私のドッペルゲンガーであることは間違いないというのに。彼は理由があって私にその姿を現したのだ。何かを伝えに、どうにかして私を守ろうとして。

それから数日、私はアンドレに何度もその事を話そうとした。しかしアンドレは聞く耳を持ってくれなかった。皮肉にもドッペルゲンガーが私達の間に壁を建てているかのように。以前のように話し合える関係ではなくなってしまっている。私達は多くの夜を会話を無しに過ごし、彼女はケイティの世話で疲れているといって早めにベッドに行くようになった。そして私はというと、眠らずにテレビに流れる古い映画を早朝まで観るなんて生活を送った。

私はドッペルゲンガーのことについて繰り返し考察した。

過去に起こった事実の事。ジャノス サボゥという名の男がフェルカ通り7番地に住んでいた。1945年の1月18日、彼の妻と娘が、ジョージー通りの地下酒造上、現在でいうとゾルツのバーのある場所で爆撃により死亡。

他の事は一体、どういうことなのか。

去年と今年の1月18日。この日に私はフェルカ通りで彼と会っている。

彼は私と同じ姿形。

これは一体何を意味するんだ?