最終章 そして手記となる


事故現場を背に、足を引きずるようにしてジョージー通りを歩いた。絶望に打ちひしがれた私は死んでしまいたいと願った。下を向き地面を見たまま足を動かすものの家にも何処へも向かおうとしていない。
通りの角で私は誰かと出会い頭にぶつかった。
「...すみません」
力なくそう言って顔を上げると
その顔を見て私は固まった。それは私と瓜二つの男だった。またドッペルゲンガーが姿を現したのだ。
私達はお互いの目を合わせた。すると彼は腕をゆっくりと上げ指を指した。その先に顔を向けると、暗い通りの端に二つの小さな人影が見えた。一人は女性、もう一人は子供だ。私は自分の眼を疑った。
「アンドレ!ケイティ!」
思わず叫んだ。
無意識に彼女等に向かって走り出した。振り返ると...そこには誰も居ない。
私達三人はお互い走り寄り抱き合った。長い時間。
「...おお、神よ!私はもう...君が既に...
アンドレは私の口元に人差し指を置いた。
「シーッ」
彼女は微笑んだ。
「そうかもしれなかったわね。けど、あなたの友達のおかげ」
「誰だ、”友達”って?ゾルツ?」
「違うわ、ジョン」
彼女は笑いながら言った。
「あなたのドッペルゲンガーよ」
「私の...?」
私は口を開けたまま立ち尽くした。
「一体全体、どういう事だ?」

アンドレは何が起こったのかを説明を始めた。
「ケイティと一緒にジョージー通りをバーに向かって歩いたわ。ゾルツが病院へ行っている間に店を助ける為にね。私が着いた頃、ゾルツは外に立っていたの。彼は未だバーには誰も居ないって言ったわ。で、私達はしばらくそこで立ち話をしたの。その後、彼は車に乗り込んでお母さんを病院に連れて行ったわ。
「バーの階段への入り口を見ると、あなたが入り口の前で立っていたのが見えた。私はあなたを呼んだわ。何が飲みたいのってね。けど、あなたは何も言わなかった。私は階段を降りようとしたけど、あなたはどいてくれなかったのよ。どいてって言っても全然動かなかったわ。
「そしたらケイティが泣き出したの。彼女にどうしたの?って聞いたわ。”ほら、見なさいよジョン、あなたがケイティを泣かしたのよ” 私はあなたに言ったわ。
「ケイティは泣きながら、頭を振って”パパじゃない”って言うのよ。”パパじゃない”って
「私は目の前にいる人をもう一度見たわ。日が暮れてきた冬の街灯の下で注意して見た...そして彼があなたのドッペルゲンガーって事に気づいたわ。コートが違った。古い時代のコートを羽織っていたの。
「突然あなたが持ち帰ってきたドッペルゲンガーの記事の事を思い出したわ。” 特に重要な事柄であれば、所有者に近い関係の人間にその姿を見せる場合がある”
「私が彼を見ていると彼は通りを指差したの。でも指を差す先を見ても何も無い。彼にどういう意味かって聞いたわ。そうするとまた彼は通りを指差した。それで私は、この場を離れて向こうに行けって言いたいんだと思ったわ。だから私達はそうした。私達は家に向かって歩いた。家に帰ってからケイティはソファの上で寝たわ。彼女が寝てる間、私は紅茶をいれていると、突然、外で何かが爆発したような、すごい音がした。離れた場所のようだったけど。
「それからケイティを起こして着替えさせて外に出るまで少しかかったわ。何が起こったか見に来たのよ。勿論あなたがバーに来てるんじゃないかって本当に怖かったのよ、ジョン」
私達は自宅のマンションのブロックまで来るとお互い見つめ合った。
「本当に奇妙な話だな」
私は言った。
「ええ、本当に」
彼女は言った。
「これは書き留めておかなくっちゃね」
「ああ、そうするさ」
夜に、明かりの漏れる自宅マンションのエントランスを私達は潜っていった。