第八章 また来る日



目が覚めた私はベッドから起き上がっていた。
1月11日の午前3時。
何に起こされたんだろう?私は聞き耳をたてた。ケイティは特に泣いてはいなく静かに寝息をたてている。(実際ケイティはいつも夜通しぐっすり眠る)
暗闇の中、私は悪寒と恐怖を感じていた。
額には汗がにじんでいた。
ふと何が起こったのかを理解した。
またあの夢を見たのだ。
凍える夜、フェルカ通り、ドア、走り出る私、地面に横たわる男、そして私。私自身と遭う私。

またあの時と同じ恐怖が蘇る。
ケイティが私の生活に参加して以来、あの悪夢を見たことなど無かった。過ぎ去ったことだと思っていたのに、またやってきた。以前と同じ、大きくて黒い恐怖だ。
再び眠りにつこうとしたが、やはり眠れない。
私はキッチンへ行き紅茶を入れ気分を紛らわした。そしてリビングに行き本棚から去年の日記を取り出した。
そう、私は毎日、日々の出来事を書き綴っていたのだ。
1月18日。去年のこの日に私はあの奇妙な出会いを果たした。一週間後が、その日付ということになる。

突然、ある考えが降ってわいてきた。
日付が重要だったのではないか!?そうだ、それなら合点がいく!
あの出来事の後の一週間は毎晩、その後もフェルカ通りに行き”私自身”に会いにいったが会えることなど無かった。未だに再会は果たせていない。
それは、1月18日ではないからだ。私は1月18日にあそこにいる必要があったのだ。それは次の日曜の夜だ。そして私は、悪夢をまた見た。去年のあの出来事を思い起こすために!
リビングを歩きながら私は思慮を巡らせた。日付だ。日付がポイントだった。
霊と死後の世界の調査は私にドッペルゲンガーの発見を助けてくれたが、まだ解らないことがある。私に必要なこと、それは前の1月18日にフェルカ通り、またはジョージー通りで一体何が起きていたかを証明することだ。



それからの6日間、目的の日に到達するまでが大変だった。
翌朝、アンドレに例の夢をみたことを話した。
「私が思うにだ。1月18日という日付が重要だったんだ」
アンドレはケイティを抱きながらミルクをあげていた。
「この日って何なんだろうな。この日に何があったか調べたいんだがどうしたらいいと思う?古い新聞でも捜すべきか?過去の1月18日の新聞を見れば何か発見できるに違いない。ブダペストのどこかで古い新聞を見ることはできないかな?」
アンドレは不機嫌だった。
「...聞きたくない。いい加減にして。そんなことより、もっと重要なことがあるでしょう?」
「アンドレ...しかし...
「あなたはケイティの世話をしなければいけない。そうでしょう?」
アンドレは続けた。
「空いた時間に、この先見つけられない何かを探すことなんて馬鹿げてる。この大事な時期にどうかしてるわ!」

 彼女は金切り声を上げた直後、ケイティが泣き始めた。どうやら彼女の両親の間にある空気が悪いことを感じたらしい。
アンドレには私の考えを全て包み隠さず話すことに決めていた。もう去年から真実を伏せることはよくないことだと思ったからだ。だからこの日、1月16日の金曜日。この週は毎晩、あの悪夢をみた。その週末に、来る日曜日のことについて話したのだ。
「アンドレ、私は日曜日、フェルカ通りに行かなければならない」
アンドレからの返事は無い。
「君にも一緒に来てほしい...
「冗談じゃないわ!」
「聞いてくれ!」
私は彼女の手を取った。
「私には君が必要なんだ」
「私に何が出来るってゆうの?」
私の手を振りほどき、そう言った。
「2つ理由がある。1つは独りで行くのは怖いからだ。2番目は君が何かを見るかもしれない。それを知りたいからだ」
「けど何で、その彼が、あそこにいるって解るの?」
「解らない。あくまでも推測だが、あの場所で何かが起こる。それは特定の時間なんだ。そこが重要なんだ」
私は黙っているアンドレを見つめた。
「お願いだ、アンドレ、君がいれば本当に助けになる」
「ケイティはどうするの?私は連れていかないわよ」
「もちろんだ」
私は安堵の表情を浮かべていった。
「ぺトラにお願いして預けることにしよう」
ぺトラはアンドレの友人だ。アンドレはまた口をつぐんだ。
「いいかい?」
私は恐る恐る聞いた。アンドレは座ったまま考えているようだ。
しばらくの沈黙の後。
「いいわ」
「けど、本当にこれが最後よ」
「かまわない。...ありがとう、アンドレ」
私はとても嬉しかった。直ぐにぺトラに電話をした。ぺトラはアンドレの古い友人で、今までにも私達が外出する際等、時折ケイティの世話をお願いしている。
電話でぺトラには、上司から日曜日に尋ねて来いと突然の予期せぬ報せを受けたと話した。ケイティの面倒をお願いすると、幸いにも返事はYES

アンドレが日曜日に来てくれることも決まり、夜はぐっすりと眠れることを期待した。
しかしそれは叶わなかった。翌日の土曜の夜も悪夢の繰り返しを避けることができなかった。
夢はいつも殆ど同じ。ただこの時、男がちょうどドアから出る前に、通りから激しい音が聞こえてくるような気がした。あの音は何なんだろう?考えたが解らなかった。
夢の中で私は聞くことに集中したが、夢の中のその騒音は、ぼやけていて結局何だか解らない。何か重要なことだということは解っている。きっと私を助けてくれる何かだ。ただ、それが何なのかは確信が持てない。
夢から覚めると決まって悪寒がする。起きたまま暗闇の中、悪夢が私に何を伝えようとしているのか考える。

そしてもし...来る日曜日に私が”私自身”に会えたなら...何が起こるのか。
気にせずにいられるはずがなかった。