第十四章 新たな事実


翌日。私は仕事からの帰り路、次の1月18日にジャノス サボゥ、私のドッペルゲンガーに会いに行くべきか自問自答していた。
家路を歩いている途中、ある男が店先に新しい看板を付けようと掲げているのが見えた。オーナーの名前が赤、その下にはサボゥという文字が緑色で記されている。窓の向こうにはスーツ、ジャケット等が見える。テーラーショップのようだ。
サボウ。テーラー。テーラーショップにサボゥと印字された新しい看板が付けられようとしているんだ...私は思った。そして直後叫んだ。
「ジャノス サボゥ!」
待てよ
「ジャノスという名前、テーラー。私の名前、テーラー。ジョン タイラー」
私は通りで立ち止まった。
ジャノス サボゥはジョン タイラーだ!
私のドッペルゲンガーと私の姓名は同じだった!英語のジョン タイラーはハンガリー語ではジャノス サボゥだ。
私は全身の毛が逆立つのを感じた。新しい衝撃的な事実。私達の名前は同じだ!
酒が必要だ。私はゾルツのバーに入り、新たに発見したことについて考えていた。何を意味する?どうする?アンドレに話すべきか?私を信じる材料になるだろうか?それは解らない。
私は昨晩見た夢を思い出していた。破壊された酒造場の瓦礫の中、何かを探している。
私は再びフィッシャー夫人に会いにいくことを決めた。足早にフェルカ通りに入り、マンションのエレベーターに乗り込みフィッシャー夫人のドアベルを鳴らした。
「フィッシャーさん。覚えていますか?ジャノス サボゥの事で先日伺ったものです」
そう私が聞くと、彼女は私を招き入れてくれた。
「もちろんですとも。おぼっちゃん」
私を見つめ悲しげに
「そして、あなたはあの人によく似ているわ。とてもよく似ている」
その言葉に衝撃が走った。
「本当ですか!」
「こちらに来なさい」
私はリビングの下の強い明かりに下に来た。
「どれ」
彼女は私の顔を注意深く見つめた。
「あなたは同じだわ。目。鼻。口。全部同じ。この前はよく見えてなかったわね。ああ、おぼっちゃん」
全身の血が騒ぐのを感じる。
「フィッシャーさん。今日は少し違う事を聞きに来たんです」
しかし私はそれを聞く事を臆した。何故なら彼女の答えは、それは恐ろしいものかもしれない。
「覚えていますか?地下酒造場で殺された、妻と娘の名前を?」
「ええ、奥さんの名前はアンドレといったわ」
私は血の気が引くのを感じた。
...それじゃ...女の子の名前は...まさか」
私は答えを待った。彼女は思い出そうとしているが覚えていないように見えた。
...うーん...
私は待った。そして言った。
「ケイティじゃないですか?」
フィッシャーさんは私を見て微笑んだ。
「そう。それだ」
彼女は言った。
「その通り。アンドレとケイティ。お気の毒だったわ」

私は彼女に礼を言って、出来る限り早くその場を離れた。頭が回りに回る。吐き気がする。凍える通りで私はフェルカ通り7番地のビルに向かって立ち尽くした。
新しい事実を整理しようと努めた。
私のドッペルゲンガーは私と同じ名前だった。サボゥ、タイラー。そして私と彼は同じ姿形。そして彼の妻と娘の名前は私のそれと同じ!
果たしてどれだけのものが私と同じなのか?私は自問自答した。
次の週、私は昼休みに公共の情報公開施設にいた。ここは今日のハンガリーに住む全ての人の情報を管理している場所だ。また過去に住んでいた人のことも含める。
私は館内の案内人に、1945年からフェルカ通りに住んでいて、1956年に死んだとされる、ジャノス サボゥの事について尋ねた。彼らの新しいコンピューターによって情報を見つけるのは驚くほど簡単だった。案内人がくれる新しい情報を、この時、私は予想していた。
ジャノス サボゥは1923年10月23日に誕生。
私と同じ誕生日だ。
確信した。これらのジャノスに関する事実と私。これは偶然ではない。私のドッペルゲンガーが何か重要な事を伝えようとしているのは間違いない。しかしそれが何なのかは解らない。
アンドレにこの事を話したかった。ただそれは不可能だろう。まず私の話に耳を貸さない。万一、話を聞いてくれたとしても信じるわけはないだろう。もしくは恐ろしい話を信じたくはないだろう。
1月18日に三度、私のドッペルゲンガーに会えるかどうか、その時まで待つ事にした。