それから毎晩、夢を見続けた。以前より鮮明に状況を感じる事が出来る。
ドアが開く、走る男、激しい音、男は誰かを捜している。
時にはドアから走り出るのは私。時には地面に倒されるのが私。
時には誰かを探している私。時には誰かを探している男をみている私。
全ての裏で男が叫んでいるのが聞こえる。
「誰か!助けてくれ!」
そして
「アンドレ!ケイティ!」
繰り返し夢から覚め、起き上がり、寒く、泣いて叫んで、その度にひどい恐怖を覚える。
悪夢を見ている事をアンドレには言ってないが、彼女が気づいている事は解っている。彼女が起きた時に言うことも出来る。しかし彼女は何も言わない。恐らく私に何が起こっているのかを知る事が彼女は恐ろしいんだろう。
1月18日土曜日。灰色の空で寒い冬の日だった。雪は降っていないが今にも降り出しそうだ。
私は早めに起き、仕事に行った。上司から次の月曜日に皆に話す前に、次の新しい仕事の計画を一緒に考えてくれと頼まれた私は、上司と二人で会議室に篭った。これが予想以上に時間がかかり、午後6時半まで家に帰ることが出来なかった。
「帰ったぞ!」
私は家のドアを開けるなりそう叫んだ。
「おーい、何処にいる?」
返事が無い。リビングに入った私はテーブルの上の書置きを見つけた。
ジョンへ
ゾルツから電話があったわ。彼女のお母さんが病気らしくて、お医者さんに連れて行ってる間、バーをみてくれって頼まれたの。
ぺトラとは連絡が取れなかったから、ケイティと一緒に行ってくるわね。長くならなければいいけど!
それじゃ ダーリン。
アンドレ(とケイティ)
血が凍りついた。時計を見ると6時45分。
私はコートを羽織るのも忘れて外に出た。階段を駆け下り、通りに出る。そしてバーに向かって走り始めた。6時55分に差し掛かろうとしている。私は左のジョージー通りではなく、右に曲がりフェルカ通りに入った。そして7番地へ。ビルの大きなフロントドアが開いている。中に入った私は走ったせいで息が上がっていた。何処かの部屋からテレビかラジオの音が聞こえる。
突然、外のどこかで激しい爆発のような音が起こった。全ての窓がそれで揺れている。一つか二つの窓は開いていて、闇の中でお互いを呼び合うような声が聞こえた。
「何だ、今のは?」
「知らないよ」
「爆撃みたいだったな」
それから、通りで誰かが叫んでいるのが聞こえた。
「助けて!助けてくれ!ジョージー通りで爆発が起こった!皆、助けてくれ!」
私はドアを走り出て通りに出た。後ろでドアが激しく閉められた。
通りで私は誰かと衝突した。
「気をつけろ!」
男は言った。
彼は地面に倒れた。私は下を見て、何を見ようとしているのか自分に問いただした。
そこには私と同じ顔をした男が地面に横たわっていた。
「すまない」
ハンガリー語で私は言った。
私は走り出し、道を渡りフェルカ通りに入った。焦りに駆られ必死の形相で走った。これから私が見つけようとしているものは何なのかを考えながら。