新しい生活サイクルが始まった。
朝、職場に向かう。仕事をする。会社を出た後に、フェルカ通りの7番地ビルに向かう。必ず7時前には間に合うように。そして、あの場所で待ち、その後は酒蔵で時間を費やす。
そして毎晩、あの夢を見てうなされて、闇の中、恐怖に起こされる。
再び眠りにつくと、また同じ夢を見る。眠りにつくことが出来ない場合、闇の中でベッドで横になったまま、何が起こっているのかを考え見つけようとする。
朝が来る度に、私の疲れは次第に増していった。
それに伴い、アンドレへの態度も変わっていった。優しく出来なくなっているのは自分でも解っている。
例の夢のおかげで疲労がピークに達し、気分は最悪だった。
毎晩帰りを遅くする事に対し、アンドレには後ろめたさを覚えているが、未だに事実は伝えていない。
仕事の問題はより深刻化していた。対処しなければいけない問題に向き合うことが難しくなっていた。
更に悪いことは重なり、次の日、アンドレと喧嘩をした。私が何故毎晩ジョージー通りの酒蔵から帰ってくるのかアンドレは理解できなかった。当然といえば当然だ。しかし私は理由を言えるはずも無く、気分が悪くなるばかりだった。
そうして私の酒の量は次第に増えていった。
酒蔵にいる時間が長くなり始めた。何故なら家に帰ること、眠りにつくことが怖いからだ。あの夢をみるのが怖い。自分の家に近づきたくない気持ちが強くなる。
火曜日、相当の酒を飲み、いつもより遅い時間に帰宅した。アンドレは既にベッドにいた。
金曜日、また家に帰るのが遅くなった。リビングでアンドレはかなり不機嫌そうに私を待っていた。疲れた表情で顔色は青白く、青く美しいはずの瞳が充血している。彼女は泣いていたのだ。
「ジョン......」
キッチンからチーズとパンを手に取る私に彼女は震える声を投げかけた。
「いったいどうしちゃったの?」
チーズを乗せたパンにかじりつき無言を貫く私を彼女は再度、振り向かせようとするかのように呼んだ。
「ジョン、もう言わなきゃいけないでしょう。何が起こっているの?あなたは完全に変わってしまったわ。お願い、話して」
彼女の声を聞くのが辛い。私は彼女を見た。私が心から愛しているこの美しい人を。私がひどく傷つけてしまっている人を見つめた。人目で解る。彼女もまた、憔悴しているのだ。こんな風にさせてしまったのは私なのだ。私は全身の力が抜け、たまらずその場で泣き崩れた。
彼女は私の体に手を廻し静かに慰めてくれた。まるで私が小さな子供であるかのように。そして私の顔を両手にはさみ、真剣な顔で問いかけた。
「話して、ダーリン」
「あなたを助けたい」
そして全てを話した。
言葉達が私の口から静かに吐露されていく。
そうして話し終わったとき、あろうことか、突然、彼女は大きな声で笑い始めたのだ。
「なんだ、何が可笑しい!?」
怒りを隠しきれない声がでた。
「違うの」
彼女は笑いながら続けた。
「全然、おかしな話だとは思ってないわ。けど私とっても嬉しいの」
笑いを止めて深呼吸をした彼女は落ち着いて話した。
「ほら、私はあなたが誰かと会っているのかとばかり思っていたわ。特別な女性を見つけたのかと思って。毎日が不安でたまらなかった。」
私達は抱き合い、そしてかなり永いキスをした。
彼女は私にまた全てを話すようにさせた。ゆっくりと。彼女は質問をすることを抑えながらも、全ての情報を引き出すことに努めてくれた。
「解ったわ」
「明日は土曜日ね、私達はお互い仕事がない。フェルカ通り7番地に行ってみましょう。そして聞き込みをするのよ。何かこのストーリーの答えが見つかるはずだわ。これは確信よ。」
私はなんて幸せなんだ。彼女は素晴らしく優しい良妻だ。これからは全てが上手くいく。私はそう信じて疑わなかった。